ECサイトをつくるとき、ある程度の企業だとフルスクラッチでいちから作ろうと考えがちですが、すでに、Shopifyやec-cubeなどのASP-ECを使えば最短1日で、専用の自社ECサイトが作れます。さらに中大規模向けの企業では、最初からECの機能を持っているパッケージやクラウドECをカスタマイズすることで、年商10億円くらいのECサイトカンタンに作れるようになりました。
つまり、ECサイトを作る選択肢が増えて、特別な技術力がなくてもECサイトを作れるようになったのです。そんな中、ゼロから作るフルスクラッチのECサイトは必要なのでしょうか?
結論から言えば「ZOZOTOWN」のようなスピード感も予算も、人材もいる企業はOKですが、そうではない場合、パッケージが妥当です。
本日はEC業界で10年の経験がある筆者がフルスクラッチで構築するECについて業界関係者の立場から解説していきます!が趣味で書いてるブログなので、間違っていたらごめんなさい!
フルスクラッチのECサイトが必要な事業規模は年商30億円以上!
まず、フルスクラッチでECサイトを作る必要がある事業規模は最低30億円の売上がある企業に限られます。すでにパッケージやクラウドECでも、フルスクラッチに匹敵するカスタマイズや拡張性がありますので、それなりの大規模ECサイトでないと、フルスクラッチの意味がないからです。
通常、フルスクラッチでECサイトを作る場合は、下記の3つのパターンに限られます。
①大規模ECサイト
②とにかくオンプレミスでECサイトを構築したい
③要件が特殊なECサイト(予約システムとか格安SIMなどの特化型EC)
もし、このパターンに当てはまらないのでしたら、フルスクラッチでECサイトを構築するのは止めて、パッケージやクラウドECにするべきです。なぜならフルスクラッチでECサイトを作るメリットがほとんどないからです。
しかも③のパターンであっても、現在はECのパッケージやクラウドECは事例も増え、拡張性が高まってきたので、あまりフルスクラッチを選ぶメリットはないでしょう。
フルスクラッチでECサイトを作るメリットとは?
まず、フルスクラッチでECサイトを作るメリットを整理したいと思います。以下に箇条書きで整理してみました。
メリット①どんな要件にも対応できる
メリット②完全に自社用のECサイトを作れる
メリット③自社でサーバーからECサイトまで全て管理できる
メリット④カート周りなど売上最優先のデザインが可能
メリット⑤機能の追加や保守対応が早い
メリット⑥自社の高いセキュリティ基準にあわせられる
メリット⑦データ管理を完全にコントロールできる
すべて少し似たような内容になってしまいましたが、オンプレミスを重視する企業はコードを開示していないクラウドなどを嫌がる傾向が強いため、フルスクラッチが好まれます。(ASP全盛の時代ですが、こういった企業も多いのです)
メリット④がフルスクラッチのECサイトで最もメリットになるのではないでしょうか?例えばZOZOTOWNは完全に内製でECサイトを構築しており、マーケティング部と開発部がコミュニケーションを取り、カート周りを徹底的にチューニングしています。
パッケージやクラウドECでも、同様の改修は可能ですが、フルスクラッチで自社内エンジニアを抱えていれば、高速PDCAを回してECサイトを改修することができますから、どうしてもスピード感に差がでます。
メリット⑤についても同じようなことなのですが、制度・法律の変更や顧客のニーズに合わせた機能追加や改修、また保守が素早く行える点は大きいです。自社専用のシステムなので、一方的なサービスの終了もありませんから、そういった意味ではフルスクラッチのシステムはある程度長く使えることができると言えます。
つまるところ、フルスクラッチのECサイトは売上を最大化するためのデザイン改修が素早くできるのが最大のメリットと考えます。
また、マーケティングに全力を注いでいる大手企業からすると、パッケージ企業の遅い(遅くはないのですが、客からすると)開発スピードに我慢できずにフルスクラッチ改修をかけるケースが多々あるのです。
あるいは、大手企業において独自の高いセキュリティ要件がある場合は、パッケージよりも自社開発した方が、セキュリティ基準を満たしやすいメリットもフルスクラッチのメリットと言えます。
では、フルスクラッチのECサイトのデメリットとはどのようなものでしょうか?
フルスクラッチのECサイトのデメリット
フルスクラッチのECサイトが時代遅れになってきたのは、一から作るメリットが減ってきたためです。ではデメリットを箇条書きでまとめてみました。
デメリット①初期費用が高い(費用が安いパッケージやクラウドECでも実現できることが多い)
デメリット②ECサイト構築にまで時間がかかる
デメリット③サーバー等のインフラを自社で用意する必要がある
デメリット④システムが古くなる(5年~7年に一度は作り直しが必要)
デメリット⑤社内フルスクラッチの場合はドキュメントが整備されていない
デメリット⑥自社での内部管理のコストが高くなる
デメリット⑦品質が悪くなる傾向がある
デメリット⑧自社においても開発力をもった人材が必要
デメリット⑨保守・運用の負担が多い
では、これらのデメリットをまとめたので、一つずつ紹介いたします。
費用や構築スピード
まずデメリット①と②に関してですが、今はecbeingやebisumartなどのパッケージやクラウドECがあり、最初からECに必要な機能は全て実装されていますし、事例もあらゆる業界で増えてきました。
すでにノウハウも機能もあるパッケージやクラウドECをベースにECサイトを構築したほうが、大規模ECサイトの場合、数千万円も安くなります。そしてパッケージをベースにECを構築するため、フルスクラッチより早くECサイトを構築することが可能です。
要件にもよりますが、フルスクラッチで大規模ECサイトを作ると早くても半年から1年かかりますが、パッケージやクラウドECなら三ヵ月で開発が済むこともあります。
ECパッケージやクラウドECのベンダーを選ぶときは、自社の業界を経験しているベンダーを選ぶと、構築スピードだけでなく、要件定義もスムーズになります。
例えば、格安SIM販売などは、携帯電話とSIMが絡む特殊なビジネスモデルですが、ベンダー選定の際は、格安SIMの構築事例を経験しているパッケージやクラウドEC業者だと、スムーズにEC構築が行えます。
システムが古くなる
フルスクラッチのシステムの宿命ですが、システムの陳腐化です。最初に構築されたECシステムに継ぎはぎで、修繕を加えていくことになるので、5年も過ぎるとすっかり時代遅れのシステムになります。
だいたいの企業は5~7年でシステムを刷新していますが、莫大なシステム投資と時間がかかります。クラウドECであれば、ASPのようにシステムが自動更新されますので、大規模ECサイトにおいても、乗り換えが発生しません。
また、今では当たり前のスマートフォン対応(レスポンシブ対応)も、フルスクラッチでは、自前で開発しなくてはなりませんが、ASPやクラウドECでは、自動で対応してくれます。こういった世の中の新しい流れにも、フルスクラッチでは自前で対応しなくてはならないデメリットがあります。
ドキュメントが整備されていない
社内にIT技術者を抱えてフルスクラッチでECサイトを作っている場合ですが、社内でシステムを構築する場合は、構築スピードや、障害対応時間においてメリットがありますが、仕様のほとんどが技術者の頭の中に入っていることが多く、技術者の離職に伴い、ブラックボックス化が進んでしまいます。
ECサイトの話ではありませんが、下記の相談を受けた経験が筆者はあります。
「うちのシステムは技術者が全員退職したから、保守ができないんです。貴社でメンテナンスを引き受けてくれないか?」
当然仕様書なんてものはありません。このような地雷案件を引き受けてくれる会社はなかなかいませんね。このように内製でシステムを持つと、ドキュメントの整備が二の次、三の次になってしまいます。
内部管理のコストが上昇
昨今では、ベネッセで情報漏えいの事件があり、こういった事件が起きると一気に社会的信用を失う時代になりました。今やある程度の企業は内部管理も手を抜くわけには行きません。
フルスクラッチでシステムを自社で持つと、セキュリティルームを作ったり、中に入れる人を管理したり、鍵をかけたりと内部管理を行うための工数がかかり、そういったコストが馬鹿にならなくなってきており、自社でシステムを抱えると大きなデメリットになるのです。
自社にも高い開発スキルを持つエンジニアが必要
フルスクラッチのECを自社開発する場合は、当然エンジニアが必要となりますが、外部ベンダーに依頼してフルスクラッチで作る場合にも、エンジニアが社内にいる方がよいでしょう。
もし、エンジニアや要件定義が自社できない場合などは、ベンダーの仕様が正しいかどうか判断できなくなるためです。
ベンダー側の体制を完全に把握はできない!
ECサイトの話ではありませんが、昨今尼崎市役所において、市民情報46万人分の情報が入っているUSBを紛失する事件がありました。そんでやっちゃた人は、市役所の指定業者の下請けの下請け。しかも市役所はそんな多重下請けの状態を把握しておらず、大きな問題となりました。
尼崎のUSBメモリー紛失事件で見えた闇、多重下請けの無責任を根絶せよ
しかし、そのようなことはシステム開発でも珍しいことではありません。契約書に「外部再委託を禁ズ」みたいな文言があっても、ガンガンに再委託しちゃっているのが日本社会。
私の知り合いも、国税局で昔プログラマーをしておりましたが、
国税局→謎の会社(既得権益っぽい)→NEC→NES(NEC関係会社)→大手SES→中堅SES→上野のしょぼい人だし会社→契約社員
という多重下請けの最下層で契約社員をしておりました。このようなことは全く珍しいことではありません。このように下請けに行けば行くほど、品質やモラルが下がってくるので、これは非常に問題です。
このようなことは、複雑な大規模開発となるとよくあることなのです。なので、ベンダーに開発を丸投げする時には、開発側の体制を把握しておくべきなのです。
フルスクラッチは品質が下がる?その理由とは?
ECシステムのマーケットの主流は「パッケージ」です。そしてECパッケージは、最初からECに必要な機能が実装されており、それをベースにカスタマイズするので、工数や価格もフルスクラッチよりも安くなります。
そうすると、フルスクラッチの価格もマーケットの中で下がってきますが、価格が下がっても、工数が下がるわけではなく、受注した業者も内部工数では利益がでませんので、下請けにだします。その下請けがさらに下請けに出すという状況になり、最終的には零細企業が開発しているというケースも珍しくはありません。
そうなると、品質は必然的に下がってきます。
また、もう一つの品質が良くならない傾向の理由は、フルスクラッチは自由に何でも実現できるという点です。これには大きな落とし穴があります。
つまり、なんでもできるのであらゆる部門の、あらゆる人が「あれもこれも」と機能追加の主張をしてきます。そこで業務を整理できる人がいれば良いのですが、そうでないと、コストが跳ね上がり、動かない、取り返しのつかないシステムになってしまいます。
ECではないですが、例えば、みずほ銀行のシステム統合プロジェクトが、もう何年も上手くいかないのも、いろんな人が意見を言い過ぎているのではないか?と筆者は考えています。
自社のシステムの面倒をみているベンダー会社にフルスクラッチを依頼するのは危険
新規事業として、ECを始める時によくあるのが
「自社の社内システムの面倒を見てくれてるベンダーに、ECサイト構築の依頼も出すことです」
実は失敗するケースが多く、リスクがあります。といいますのも、ECサイトにはECサイトのノウハウがあります。システム会社には技術力があっても、ECサイトのノウハウがわからないため、要件に忠実に作ってしまい、ECサイトに必要な機能が実装されていなかったりするケースがあるのです。
もし、そのシステム会社が、ECサイト構築を事業として展開しているのでしたら、問題はありませんが、ベンダー選びは、パッケージやクラウドECなど専業の会社に依頼するのが無難です。
また、ベンダーがECサイトを作るときに、オープンソースのEC-Cube4系を使うことがよくありますが、経済産業省も過去にEC-Cubeの脆弱性を指摘していることからも、セキュリティー脆弱になります。
経産省からEC-CUBEの脆弱性について注意喚起 EC事業者が行うべきセキュリティ対策とは?
ECのノウハウがないベンダーがECを開発すると、いろいろデメリットがあるので、ECサイトを検討するときは気を付けましょう。
フルスクラッチはマーケティング施策のスピードを加速させるためのECサイト構築方法
費用や、保守性の面でECサイトをフルスクラッチで作るメリットは、もはやありません。なぜならパッケージやクラウドECがあり、費用も保守性が良いからです。
特にebisumartやW2が代表するクラウドECは、システムが古くならずに、システムをカスタマイズ可能なため、今後主流になるでしょう。
しかし、それでもフルスクラッチのECサイトには、自社のマーケティング施策を加速して行うには、最も良い方法と考えます。
その証拠にZOZOTOWNや、無印良品など業界を代表する大規模ECサイトは、いずれもフルスクラッチで作られており、フルスクラッチの最大のメリットは、自社でマーケティング施策のための改修を最速で行うことができることです。
そのためには社内のマーケティング部とIT部が連携していないとなかなか実現できませんが、それができれば、売上を最大化するECサイトを作ることができます。
とはいえ、フルスクラッチでECサイトを作る前に、「パッケージ」や「クラウドEC」を下記リンクから検討してみてくださいね。
大手ECシステムパッケージ各社徹底比較 →